男はつらいよ お帰り寅さん〓渥美清さんの思い出
2020-02-23


こどものころ、お正月には必ず家族で映画を見に行きました。
寅さんと007。
どちらも、お正月には必ず新作が公開される人気映画でした。
いつもはまったく笑わない父が、寅さんを観ると大笑いしていましたっけ。

今年のお正月、久しぶりに寅さんの「新作」を母と観に行って、そんなことを
思い出していました。

東京で働いていたとき、渥美清さんを見かけたことも、思い出しました。
たしか、大学を出てほどないころ。
残業のあと、同期の友だちと三人で、会社から歩いて5分の帝国ホテルに寄って
一階のレストランで食事をしていたときのことです。
(映画大好きなわたしは、いつも仕事のあと日比谷の映画館に行くのに
ホテルの中を通って近道していたので、時々、お礼(お詫び?)に、
安月給でも手が届く一階のカジュアルレストランで、パンケーキなどを食べていたのです。)
隣の席に渥美さんが入ってきました。

「あ、寅さん」友だちが、小さな声でいいました。
渥美さんは、ちらっとこちらを見て、わたしたちは、思わず黙礼し、
渥美さんも、そっと黙礼を返してくれて、それから椅子に座りました。
シャーロック・ホームズみたいな鳥打帽をかぶって、さりげなくおしゃれな
スーツ姿でした。
小学校高学年ぐらいの男の子を連れています。
甥御さんかな、と思いました。
(寅さんに甥の満男が出てくるから、勝手にそう思ったのですが。)

映画の寅さんと全然違って、本当に物静かで紳士でした。男の子もそうでした。
ふたりのあいだには温かな空気が流れていて、なんだか素敵でした。
渥美さんは、人間として、とても温かで、おだやかな方で、周りへの心配りも
細やかなんだろうなと感じました。

映画の中の寅さんは、ちょっとおっちょこちょいで、早とちりで、
常識はずれなところもあって、家族に迷惑をかけたりするけれど、
渥美さんはそんなことはなさそうです。
でも、寅さんは、困っている人がいると放っておけません(特に相手が美女ならば)。
本当に心の芯が温かいのです。
その温かさは、渥美清さんの人柄と重なっているのだと思いました。

「お帰り寅さん」の主人公は、甥の満男です。
作家として独り立ちしていますが、妻をなくして、娘と二人暮らし。
そんなとき、高校時代の恋人に再会して…。というお話です。

恋に仕事に悩む満男が思い出すのが、かつて、寅さんに
人間て、なんのために生きているのかなと問いかけたとき、寅さんが、
おまえ、難しいこと聞くなあといって少し考え、
こたえた言葉が、心にしみます。

「なんというかなあ、ああ、生まれてきてよかった。そう思うことが、

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